下田 ‐ 建築史研究室

筑波大学 世界遺産専攻 下田一太研究室のブログです

マジャパイト王国の寺院調査

ジョグジャカルタからソロまで足を伸ばしてマジャパイト王国の寺院を訪れました。マジャパイト王国は14世紀半ばに最盛期を迎え,その版図は最大時で西部を除くジャワ島全域,スマトラ島全域,そしてマレー半島南部にも至ったといわれています。中国では元朝治下にあって当地の香料の消費拡大がマジャパイトの発展を促した一因であったと考えられています。

ラウ山中に建つChandi Sukuh(スクー寺院)とChandi Ceto(チェト寺院)を訪れましたが,前者は標高910m,後者は1496mという高地で,ソロの町とは打って変わって肌寒いほどの温度差です。

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(チャンディ・スクー寺院)

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(チャンディ・チェト寺院)


両寺院ともにあたりは深い霧に覆われ,神秘的な雰囲気で静まり返っており,ここが聖地であることが深々と伝わってきます。これまでに書籍で見た寺院の写真もまた霧にかかっているもの多く,ずいぶん良いタイミングで撮影したものだと思いましたが,ここでは日常的に霧がかかっているのかもしれません。

いずれも15世紀に建立された寺院で,マジャパイト王国が最盛期を迎えた時期よりも後の時代のものです。この王国を最後にジャワ島はイスラム教化されるため,これらの遺構はジャワ島で最後のヒンドゥー教寺院となります。

双方ともに寺院は山の傾斜地に造営されており,参拝方向に長い伽藍配置の最奥に主神殿が配されます。建物への彫刻装飾や丸彫り像はボロブドゥールやプランバナンと比較すれは随分と稚拙なもので,土着化の色濃い表現といえるかもしれません。

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(チャンディ・スクー寺院内浮彫)

特にチェト寺院には力強い表現の丸彫りの石彫が多数残されており,ヒンドゥー教の後継芸術とは異なった流れをくむものと思われます。こうした彫像の中には参道上に配置されているものもありますが,どこまで当初の配置を再現できているのかどうかは定かではありません。おそらく発見された後に,適当な箇所に配置されたものでこれらの彫像(神像?)の構成を考察することは難しいものと思われます。

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(チャンディ・チェト寺院内石彫)

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(同上の彫像を写真測量より三次元化してみました。使用したのはVisual SfMとMeshLab,いずれもフリーソフトです。)

ボロブドゥール寺院の建築形式は,インド起源の仏教寺院やヒンドゥー教寺院の中でも極めて独特なもので,ロロ・ジョングランのように直系のインド建築の流れを受容しているものに対して,これがどのような背景のもとに構想・計画されたのか大きな謎ですが,山岳信仰や精霊信仰と外来宗教との独自の融合にもとづくものであったと考えて良いでしょう。そうした土着的・地域的な構成原理が受容から時間を経て,外来の仏教・ヒンドゥー教芸術が国風化されていく中で再び色濃く表れたものと捉えることも可能です。

チェト寺院の最奥神殿の背後には山深い静謐な空気が漂い,この寺院が神の住処というよりも山の神に対する参拝の場として機能していた様子が想像され,こうした土着的信仰への回帰の過程が窺われます。

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クメール寺院でも自然の傾斜地を利用して長い軸線を有する「縦深型」と区分される寺院が多くありますが,こうした山岳寺院が堂山型いわゆるピラミッド型の寺院の原型としてあるように思われます。しかしながら,アンコールの版図内には堂山型が形成される前段階の縦深型長軸寺院はほとんど認められません。その前段階がもしかしたらジャワにあるのかもしれません。来月には仏教・ヒンドゥー教と時代的に併存していたものと考えられている西ジャワの山岳石造寺院の調査を行う予定ですが,こうした遺構に堂山型寺院の原型を求めることができればと思っています。

また,時代は遡りますがプランバナン遺跡群の南方の山の頂部にはシヴァ教寺院であるチャンディ・イジョという遺構が残されています。中部ジャワではほとんどの仏教・ヒンドゥー教寺院が平地に造営されている中で異例ですが,ここにもやはり傾斜を利用した縦深型寺院の構想が認められ,数は限られているものの土着的信仰と外来宗教との融和・折衷が具現されたように思われます。この寺院は今回初めて訪れましたが,ジャワの寺院の多様性を考える上で重要なヒントを与えてくれたように思います。

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(チャンディ・イジョ寺院)

マジャパイト寺院の造営されたラウ山の複雑な傾斜地での畑作景色が深く印象に残る小旅行でした。(下田)

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