下田 ‐ 建築史研究室

筑波大学 世界遺産専攻 下田一太研究室のブログです

カンボジア遠方大遺跡調査

カンボジア国内でも大型の地方遺跡であるサンボー・プレイ・クック遺跡群,コンポン・スヴァイのプレア・カーン遺跡群,プレア・ヴィヘア寺院の調査に早稲田大学の内田教授チームとまわりました。いずれの遺跡ともこれまでに何度も調査に訪れており,それぞれ研究の精度が高まりつつあります。今回もそれぞれのサイトにて特定の課題を設け,調査を行いました。

サンボー・プレイ・クック遺跡群では煉瓦造祠堂の建造順序を解明することが目的でした。既往の金石学研究や美術史編年によって建造時期の推定はされているものの,それらの根拠は希薄であり,また建造物の多くは7世紀前半に集中して建立されものと考えられています。
今回は,煉瓦の化学組成や帯磁率を手掛かりに,新たな区分を設け,それらに建造時期の順序を与えていくことを試みました。都城内に位置する複数の煉瓦造遺構も対象として調査を進め,これまでには考えられたことのなかった,興味深いグルーピングが考察されつつあります。

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また,プラサート・サンボー寺院の主祠堂の修復工事が進みつつあることを併せてここでお伝えします!
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コンポン・スヴァイのプレア・カーンは,鉄山プノン・デイから20km程と近く,製鉄という産業を基盤に発展したクメールの一都市と考えられています。近年,遺跡群内の製鉄址での発掘調査も進み,こうした推定が明確なものとなりつつあります。今回は,遺跡群でのスラグ分布について調査を行いました。鉄山との間にもいくつかの製鉄址が発見され,同地には土器片も多数記録されました。

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また,遺跡群周辺の採石痕の踏査も行いました。雨期明けであったことから,調査対象となる川底の多くは未だ水浸のため明確には確認ができませんでしたが,いくつかの新たな採石場跡地が認められました。しかしながら,いずれもその規模は小さく,特定の遺構や時期に比定することは難しいものでした。

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プレア・ヴィヘア寺院でも,これまでに複数回の調査を行い,建築学的に最大の課題である伽藍の形成過程についての解明を進めてきました。
今回はさらに,詳細な岩石学的な調査と彫刻装飾の分析を試みました。これまでに推測されてきた伽藍内の各施設の建立経過とは異なる結果が推定されつつありますが,帰国後の調査結果の分析が待たれるところです。

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近年の科学的な分析装置の小型化や携帯化によって,現場での様々な分析が可能となり,新たなツールによって長年にわたる様々な研究課題に終止符をうつための研究が可能となりつつあるように感じます。


(なお,裏研究として,サンボー・プレイ・クック遺跡群の蟻の生態に関する調査が進みつつあるような・・ないような・・・。)
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カンボジア演習 その3

カンボジア演習はシェムリアップに入り,世界遺産アンコール遺跡群における修復活動の各サイトを見学してまわりました。
日本国政府アンコール遺跡救済チームの事業事務所の見学に始まり,バイヨン(日本),バプーオン(フランス),王宮前広場,タ・ケオ(中国),プレ・ルプ(イタリア),プノン・バケン(アメリカ),タ・プロム(インド),アンコール・ワット(ドイツ等),バンテアイ・スレイ(スイス)の各遺跡を訪れ,アンコール遺跡と一言でいっても,多様な建材・構造・立地にある遺構があり,それぞれに異なる歴史的価値がある対象に対して,どのような保存・開発の介入がありえるのか,考える機会になったことと思います。

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また,トンレサップ湖の湖畔で杭上・水上生活をしている村落の見学もまた今回の演習の印象的な記憶の一コマとなってことでしょう。

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カンボジア演習 その2

カンボジアでのスタディーツアーは,プノンペンの2日間の後,コンポントム州サンボー・プレイ・クック遺跡群へと場所を移して12月12~14日にかけて進められています。

サンボー・プレイ・クック遺跡群は現在,カンボジア政府が世界遺産申請準備を進めているサイトで,来年2月に登録申請の書類を提出する予定となっています。
こうした遺跡の現場において,今回は主に地元住民がどのように遺跡とかかわっているのか,住民のサステーナブルな発展のために,以下に遺跡がありうるべきか,ということを考えることを目的としていくつかの活動を行いました。

初日の午前中は遺跡群の中心部を見学して回りましたが,日本国政府アンコール遺跡救済チームの広報を担当している吉川さんからも案内をしてもらいました。NHKの番組撮影をかねての遺跡案内となり,カメラが回りながらの見学となりました。一部の学生がインタビューも受けましたので,1月12日のBSにもしかしたら。。。

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さて,遺跡群周辺の村落にて以下の調査を実施しました。
1.周辺7カ村の村長と住民へのインタビュー調査と略地図の作成
2.遺跡群内でも最も重要な地区に位置するオー・クル・カエ村の詳細な村落地図の作成と村民へのインタビュー調査
3.遺跡群周辺のホームステイサービスを中心として,地域の観光資源探し

カンボジア人大学生と日本人大学生とがグループとなり,テリー先生やメンホンさん等の協力を得て調査が進められました。

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また,サンボー・プレイ・クック遺跡群での活動最終日には,地域の高校生約30名に対して,日本人とカンボジア人大学生が世界遺産教育を行いました。
教室で基本的な世界遺産についてのレクチャーをした後に,グループに分かれて,いくつかのカテゴリーに分けてさらに詳細を勉強し,最後に高校生から勉強した内容や感想を発表をしてもらいました。
はじめての世界遺産教育の体験でしたが,工夫をこらしたなかなか充実した内容であったと思います。
高校生の英語力の高さと勢いに,日カの両大学生は驚く以上に圧倒されたところもあり,大学生にとってもたいへん刺激的な体験となったことでしょう。

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さらに現地調査の結果を短時間で整理して現地事務所で報告を行いました。
今後は今回の調査結果を詳細にまとめて,インターネットベースでカンボジア人学生と結果を共有していきたいと考えています。

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カンボジア演習

12月9日より12月18日にかけて,世界遺産専攻1年のメンバーを中心に,カンボジアにてスタディーツアーを行っています。ツアーの前半はカンボジア人大学生約10名も合流し,計25名ほどで各活動を行っています。
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到着翌日の10日と11日はプノンペンに残された建築遺産をめぐるツアーを行いました。

フランス植民地時代の施設やホテル,住宅や華僑(華人)地区に残された民家や霊廟,そして1950年代から60年代にかけてのいわゆるカンボジアの黄金時代と呼ばれたモダニズム建築を代表するVann Molyvann氏の作品を見学しました。
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100 Houses Projectでは,コルビジェの近代建築の原則を踏襲しつつも,カンボジア風の伝統家屋をもとに,独自のトロピカルな気候風土に適応した住宅作品を広めようとした思いが形として残されていました。また,いわゆるオリンピックスタジアムでは,古代クメールの建築思想を拠り所にカンボジア独自のモダニズムのカタチや構造を模索した様子が色濃く感じられました。

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かなり駆け足で回るツアーでしたが,多くの建物で内部の見学ができ,様々な形で今に利活用されている様子を目にすることができました。ただ,重要なコロニアル建築のいくつかは,廃墟となり,その保存のめどもたっておらず,プノンペンの急速な開発の渦の中で消滅しようとしている状況にある様子が切実でした。

初日のツアー最後には,カンボジアの近代建築の巨匠であるVann Molyvann夫妻との面談がかない,自邸内にてカンボジアの建築,そしてアンコール遺跡の保存開発にかけた様々な思いについてお話しいただきました。
大勢に流されない反骨精神に満ちた強い遺跡保存にかける気持ちを語っていただいたことは強く記憶に残りました。
西洋建築を独自のカンボジア風モダニズムに昇華させたこと,また真に住民のための遺産・遺跡保存へと尽力した思いは,一緒に話を聞いたカンボジア人の建築学科の学生たちには一際強い印象を残したことでしょう。

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