下田 ‐ 建築史研究室

筑波大学 世界遺産専攻 下田一太研究室のブログです

ボロブドゥール遺跡の建築・地盤調査

インドネシア,ボロブドゥール遺跡は1970年代から1983年にかけて大々的な修復工事が行われました。その後30年が経過し,先の修復工事の経過観測と追加工事のための調査が昨年より行われています。
約1500面にも至る仏教図浮彫の劣化が進行していることが明らかとなっており,これをいかにして食い止めるかが重要な課題です。

ドイツ政府の支援によりユネスコは研究事業・保存処置を進めていますが,日本からは主に基礎を含む遺構の構造研究のための専門家派遣が実施されています。
今回は8月19日より27日にかけて5名の日本人専門家(建築・地盤工学・測量)が現地調査を行いました。

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今回の調査では主に以下の課題に取り組みました。

(1-1)1983年より毎年実施されている測量機器による経年挙動変化の方法の見直し
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(1-2) 既存のローカル座標による測量網の地球座標系化
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(1-3)トータルステーションによる構造体への直接測量による挙動観測手法の提案
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(2-1)既存の壁体傾斜・ボーリング孔の傾斜測量データの解析

(2-2)GPSによる連続測量と傾斜計による挙動観測体制の確立
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(3)既往の修復によって埋設された排水溝の稼働効率を把握するための試験的な観測システムの設置
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ミッション期間中にはインドネシアの保存修復専門家養成のためのトレーニングプログラムも実施され,国内各地の文化局から派遣されたスタッフに対して講義をする機会もありました。
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各種観測計器の取り付けにあたっては,遺構の形状や現地で確保できる材料にもとづいて,現場合わせで準備を進める箇所も多く,設置までの各ステップで様々な困難がありましたが,なんとか最終日には全ての計器をとりつけ,データの回収方法などを現地のボロブドゥール保存センターの局員に伝えるところまで完了しました。
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次回は今年度中の雨季に再度訪れて調査・観測を継続する予定です。(下田)

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サンボー・プレイ・クック遺跡群の集落調査

現在,ユネスコ世界遺産申請の準備を進めているサンボー・プレイ・クック遺跡群内には多数の住民が生活しています。今後,地域の文化観光整備が進むことが予想される中,現状の地域生活を記録し,将来どのようなインパクトが生じるのか注意して観察していくことが必要だと考えられます。

そうした観察や地域整備やコミュニティーの保存・持続的発展の方法を提案するための基礎的な資料として遺跡周辺の集落の地図作成調査を行いました。二人一組に分かれて,遺跡群内の道路に面した各家屋の敷地境界となる木柵等を小型のGPSを利用して記録しました。

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遺跡群内はこのような木造の高床式の家屋が多くまとまっている地区があります。今回調査した地区には約70の敷地に住宅や商店、養鶏場などを記録しました。測量したポイントをCADに取り込んだ空中写真上にプロットし、線でつなげて住宅の敷地を描いていきます。数年前に実施した同様の調査と比べても,遺跡群内の家屋が増えている様子が確認されました。

各戸の敷地の境界は,道に面した境界ははっきりしているものの,後方の境界があいまいな場所も多くあります。また,同じ敷地内に数件の家屋が建っているケースもあります。今後の調査では引き続き同様の調査を行いつつ、住民にヒアリング調査を行い、家族構成や生業,住宅の住まい方などをインタビューしていくことを予定です。

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遺跡群内の敷地境界線の図面

(文責:世界遺産専攻M1 井上美優)

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アンコール遺跡群の古代都市調査

2011年4月にアンコール遺跡群上空のヘリコプターからレーダ測量を行ったデータによってアンコール遺跡群に古代都市の痕跡が明瞭に浮かび上がったことが今年7月の論文にて報告されました。
Khmer Archaeology Lidar Consortium
PNAS paper

このLidar計測のデータによって確認された古代の都市構造の解明を目的とする研究が,大阪市立大学原口強准教授を中心に進められています。

都市計画の骨格をなしているものと推測される水利構造についての現状を確認するために,アンコール遺跡群を貫くシェムリアップ川や格子状水路の痕跡,そして溜池の残存状況についての踏査を行いました。

シェムリアップ川はアンコール時代に人工的に流路を変えられた水路です。現在は大貯水池,東バライの西側に築かれたダムによって水流の管理がされており,王都アンコール・トムとシェムリアップ市街へ分岐されています。

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雨季にはかなりの流量がありますが,この20世紀前半に造られたダムができる前,古代アンコール時代の流路については定かではありません。
このダムの下流側にはスピアン・トゥモーと呼ばれる古代の橋が架けられています。この橋はアンコール・トムの勝利の門から延びる大通りを渡しており,重要な交通路を支えていました。現在では古代の石積みの橋の脇に流路が迂回しており,古代橋の橋脚の裾とのレベル差から,シェムリアップ川は約3m往時よりも川底を削り取っていることを示しています。

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この橋は,他の寺院で利用されていた部材を再利用して造られており,多数の彫刻部材が混ざっています。十分な調査はしていませんが,おそらくバイヨン時代の遺構の再利用部材であることから,この橋の建造年代が推定されるところです。
そのため,上流側の土手を切って分岐した工作年代もバイヨン時代以降と推察も可能ですが,シェムリアップ川の流路は周辺の格子状水路との位置関係で決められているように看取されます。格子状水路の一部は大型寺院の境内にも連続して残されていることから,格子状水路の建造年代が推定されるところですが,橋の築造年代とあわせて考えると整合させるのが難しい状況もあります。既存の格子状水路にシェムリアップ川となる水流を引き込んだというのが正しいところかもしれません。

今回はアンコール・トム研究の第一人者であるジャック・ゴシエ教授へのインタビューを行いましたが,トムの環濠や周壁,そして都城内部の各構造の築造年代について等,示唆に富む見解を多く指導いただきました。複数回の改変を経て現在見られる姿に至っている点を考慮して,都市計画や水路構造も複数の過程やバリエーションがあった点に注意する必要がありそうです。

また,こうした水路らしき遺構の構造を確認するための発掘調査が,奈良文化財研究所の杉山洋先生を中心として実施されました。今回は雨季であったために,予察的な調査にとどまりましたが,土器を中心として多数の出土物が検出され,アンコール・トム内での生活の気配が色濃く感じられる結果となりました。

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(下田)

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プレア・ヴィヘア寺院の建築学的調査

プレア・ヴィヘア(カオ・プラ・ヴィハーン)寺院は2008年にユネスコ世界遺産に登録された後,遺跡周辺の国境線をめぐってカンボジアとタイにおいて衝突が生じました。2011年頃より両国間は徐々に安定化し,比較的安全に遺跡を訪れることが可能となりつつあります。ただし,今でも多数の兵士(ヘリテージガード)が寺院付近の前線に築かれた塹壕にて警備にあたっており緊張した状況は続いていますので観光での訪問には注意が必要です。2012年より名城大学溝口明則教授を中心としてプレア・ヴィヘア機構と名城・早稲田大学共同調査隊による建築学調査が進められています。

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研究の主たる目的は次の通りです。
① 測量データにもとづく寺院の設計技術の研究
② 現状の形状記録と図化資料の作成による将来的な保存工事のための基礎資料の構築
③ 寺院の増改築の経過と年代の推定
④ 遺失した木造小屋組みや崩落した石造構造の復元研究

今回は8月上旬から9月半ばまでの調査期間で,早稲田大学建築史研究室による平面形状の補足測量,東京大学池内研究室による三次元形状計測,そして早稲田大学内田悦生教授らによる岩石学的な分析に基づく増改築の研究が進められています。
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以下には「増改築の研究」の一部を紹介したいと思います。
プレア・ヴィヘア寺院は南北に5つの楼門(ゴープラ)が約800m長さの参道に貫かれて配置され,最南端に最奥の回廊に囲まれて中央祠堂が建てられています。
寺院内の各所からは碑文が発見されており,こうした碑文の書体や記載されている年代・王名によって建物各部の建造年代が推定されています。

こうした史料研究に加えて,各建物の石積みを観察することで同一壁体を改造した痕跡が明らかとなる場合があります。たとえば,以下3枚の写真の壁体では異なる時代の石積みを推測することが可能です。
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石積みに加えて,建物を構成している石材の大きさや形状,化学組成や帯磁率を分析することで異なる建物間での改造の順序を関連付けることも可能です。

また,近接した建物であれば,装飾彫刻が施された面を観察することで建造時期の前後差を見分けることもできます。
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プレア・ヴィヘア寺院は砂岩の岩盤上に建てられていますが,周辺の露頭には寺院の石材を切り出した痕跡が多数残されており,建物と石材供給源との関係を考察することも可能です。また,建物の一部は石積みではなく岩盤を彫り出して造られています。
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その他,建物各所の装飾様式の比較によって建造年代や経過を推定することもできます。装飾様式はプレア・ヴィヘアから遠く離れた遺構との建造時期の関係を推定する手掛かりにもなります。
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このようにしてプレア・ヴィヘア寺院の増改築の過程を考察していますが,かなり複雑な状況であることが判明しつつあります。増築だけであれば話は単純ですが,改築や前身の遺構が取り壊されて立て替えられている場合もあり,既に失われた建物も含めてこの複合的な寺院が今見る姿に至った経緯を推測する作業は困難を極めています。

今後は寺院の設計技術に基づく増改築の整合的な説明と,装飾様式の分析をさらに進めていく必要がありそうです。(下田)
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バイヨン南経蔵の追加工事

バイヨン寺院の南経蔵は2006年より2011年にかけて日本国政府アンコール遺跡救済チームによって修復工事が実施され,その後,外回廊に工事サイトが移りました。外回廊の修復工事にあたり,寺院の南東隅周辺に散乱している石材や,外回廊南辺の内側に山積みにされている石材を解体して記録する作業を実施したところ,南経蔵の梁材が複数発見されました。

これらの新たに発見された石材を南経蔵に設置する作業を開始しています。石材はいずれも室内の柱の上に架け渡される梁材で長さ2m以上,重さも1トン以上もある大型長材ばかりです。いくつかの石材は破断しており,原位置に設置するためには,新材を接合して修理する必要があります。2013年8月時点では新材をステンレス鋼ピンでオリジナル部材に接合して原位置に仮設置して,新材の加工を現場合わせで行う作業を進めています。
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バイヨン南経蔵は5年間にわたり修復工事を行っていたサイトですが,久しぶりにこの建物での工事が行われ,屋根上から中央部を眺める景色は懐かしいものがあります。(下田)

バイヨン南経蔵の修復工事の報告や記録写真は以下のサイトに掲載しています。
Database of the restoration work of the Southern Library

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カンボジア学生レポート(1)

筑波大学世界遺産専攻M1の菅澤です。
7月28日~8月11日の二週間、カンボジアにて遺跡の調査に参加させていただきました。
前半はコンポン・トム州のサンボー・プレイ・クック遺跡において3D測量調査を行いました。後半はシェムリアップ州にてアンコール・トムのバイヨン寺院における遺跡保存調査のため、作業補助を行いました。

調査の前半にサンボー・プレイ・クック遺跡で行った測量は、3次元レーザースキャナを用いた3D測量です。360度全方向にレーザーを照射してデータを取ることで、地形や対象物を3Dデータにすることができます。一般の平面的な測量図とは違い、パソコン上で処理を行ったデータを見ると立体的で、更にデータを拡大・回転することも可能なので、様々な方向から対象物の詳細な様子を確認することができます。

今回調査に参加した世界遺産専攻の学生二名は3D測量を行うのは初めてでしたが、贅沢なことに、機械の操作練習を世界遺産アンコール・ワットでさせていただきました。

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アンコール・ワットで練習を積み、30日からサンボー・プレイ・クック遺跡において実際の測量を行いました。サンボー・プレイ・クック遺跡はアンコール遺跡よりも古い時代の遺跡であるとされており、現在ユネスコ世界遺産の登録を目指している遺跡です。
今回は、まだ調査が行われていない大規模なマウンド状の遺跡の現状地形記録のために3D測量を行いました。時期的に雑草が多かったため詳細なデータは別時期に再度計測する必要があるかもしれませんが、ひとまず今回のメイン調査の一つを無事終えることができました。今後、今回とったデータの処理を行っていく予定です。

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(サンボー・プレイ・クック遺跡での測量)

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調査の後半は、アンコール・トムのバイヨン寺院中央塔にて修復・保護に携わっておられる先生方の作業補助などを行いました。
はじめに中央塔上部の石材にナンバリングを行い石材と番号が対応できる表を作成しました。この表に剥離及び亀裂の有無・強度・含水率を測定したデータを記録し、グラフなどを作成していきます。また、石材の膨張収縮を測定する機器や目地の開きを測定する機器の設置をお手伝いしました。

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(石材のナンバリング)

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(測定器の設置)

中央塔での作業と同時並行で、外回廊の修理に用いる砂岩の破断実験の補助もさせていただきました。砂岩は何個か用意され、本数や長さが違うステンレスピンが補強のために埋め込まれています。その砂岩に負荷をかけていって割れるまでのデータを計測し、修理に用いる際の参考にしていくそうです。

私は今回が初めての海外調査でしたが、世界遺産保護の現場ではどのようなことが行われ、どのような人々が携わっているのかということを肌で感じることができました。授業で話を聞くだけではわからない複雑な問題の多さや厳しい現状も目の当たりにし、まさに百聞は一見に如かずという言葉がぴったりな2週間でした。
今回の調査で見たこと・聞いたこと・作業したことは、私にとってとても貴重な経験となりました。この充実した日々を、今後の自身の勉強の糧にしていきたいと思います。
2週間お世話になった現地スタッフの皆さんや先生方に感謝いたします。

(文責:世界遺産専攻M1 菅澤由希)

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コー・ケー遺跡群の建造過程の研究

10世紀前半にアンコール王朝が一時遷都した先がコー・ケー遺跡群(Koh Ker)です。ここには複数の寺院が建立され,短命の都であったとはいうものの,充実した宗教施設群が残されています。

建物は砂岩・ラテライト・煉瓦造の遺構が混在しており,同一時期に建立されながらも,どのようにしてそれらの建材を区別して用いたのか定かではありません。
早稲田大学内田悦生教授による岩石学的なアプローチによって,これらの建材の分析を進め,建立時期やその順序について解明することを試みていますが,今のところラテライト造の遺構について手掛かりが得られつつあります。
今回,さらなる検証を試みるために追調査を行いました。

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調査では蛍光X線回折装置や帯磁率計を用いて分析を行っています。ある一定の見通しが得られてきました。
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コー・ケー遺跡群に関しては,近年に以下の論考をまとめましたので参考までに。
http://ci.nii.ac.jp/naid/40017348902
(下田)

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砂岩材の構造試験

日本国政府アンコール遺跡救済チームは,バイヨン寺院外回廊の景観整備工事を進めています。
扉や窓枠,梁材などの横架材の多くが破断し,20世紀前半にフランス極東学院により修理されていたり,RCの支保が加えられているものも多くあります。

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今回の工事ではこうした破断した長材にステンレスピンを加えて修理する予定ですが,加入するピンの本数や長さ,位置を決定するためにこのたび原寸大での破断試験を実施しました。

新材の砂岩を数種の接合方法で継いで試験体を作製します。
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これらの試験体をジャッキで加圧しますが,今回は反力ために30トンクレーンを使用しました。
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多くの試験体では,ピンが破断して破壊するのではなく,砂岩材の曲げ破壊となりました。これらの結果は構造補強方法の基礎データとして修復設計に活かされます。
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(下田)

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バイヨン中央塔の構造補強のための研究

バイヨン寺院の中央には高さ42メートルの石積みの塔がそびえています。この石造搭状建造物の安定化の評価と補強方法の研究が進められています。

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今回は遺跡周辺の気象観測系装置の再設置と,塔上部の回廊への膨張収縮をモニタリングするワイヤー装置や目地開き計等を取り付けました。

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また,石材への番付・目視劣化記録・反発強度試験・含水率分布などを測定しました。
こうした観測結果や構造解析をもとに補強のためのデザインが行われる予定です。
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(下田)

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